記憶にない再会 -04-

マイキーからの追加の手紙に動きやすい服と懐中電灯を持ってくるようにと書いてあった。Tシャツにパーカー、ジーンズというラフな格好をして、懐中電灯も用意してリュックに詰めた。一体どこへ連れて行かれるんだろう?
母さんにはピクニックへ変更になったと言えば納得してくれて、さらに私と友達にとサンドウィッチまで作ってくれた。……亀のミュータントってサンドウィッチ食べられるのかな。
家を出て、ビル下の裏へ回る。裏手は人の通りがほとんど少なくて、殺風景だ。座って待つようなベンチもない。
彼らの姿は昼間だとすごく目立つ。どうやってやってくるのだろう、と考えていると声がかかった。

! こっち」
「こっち? どこ?」
「こっちだよ」

声のする方、足元にほど近い方へ目を向けると、そこにはマイキーの顔があって驚いた。彼はマンホールの下から顔を覗かせていたのだ。

「マイキー? 何でそんなところから……」
「説明は後! 早く来て!」
「来てって……え、まさかその下に入るの?」

もちろん、と言いたそうにマイキーはニンマリと笑う。信じられない。マンホールの下、地下道へ入るなんて! これまで入ったことがないし、見知らぬ世界にちょっと足が重い。でも、マイキーが急かすのでおずおずとそのマンホールの蓋の中へと体を滑り込ませた。

「気を付けてね、結構滑りやすいから」
「う、うん……」

細い鉄棒を打ちつけただけの簡易的な階段をゆっくりと降りる。マイキーが蓋を閉めるとあたりが真っ暗になって、足が止まった。
すると、階段下からライトが照らされて、最低限の灯りが確保される。生まれたての子鹿のように足を震わせながら少しずつ階段を降りていく。近づくにつれて、階段下にいるもう一人の姿が分かった。
この間、出会った亀達のうちの一人だということが分かる。一番口数の少なかった、紫色のバンダナの子。

「ドナテロだよ」
「こ、こんにちは」
「どーも」

ぶっきらぼうな挨拶だ。そのとっつきにくさに躊躇っているとマイキーが耳打ちしてくれる。その声は耳打ちというほど小さくはないけど。

「ドニーってば、と久しぶりに会って照れてる」
「聞こえてるし照れてない」

やっぱり聞こえてた。マイキーの方もこそこそするつもりはなかったみたいだ。ドニーが私たちの間に割り込むように私に聞いてくる。

「そもそも僕らのこと全く覚えてないってどういうことだよ? 納得いかない。4年も一緒だったのに」
「嘘じゃないよ、本当に記憶がないんだから。私だってあなた達の言ってることに納得してなくて、この目で確かめるためにこうして来たわけだし」
「そんな理由でマイキーについてきたのか? 尚更どうかしてる。僕らがお前を騙そうとしてるって疑わなかったのか?」
「助けてくれた人が騙そうとしてるなんて思わないし……私に何かするんだったらこんなところに連れて来た時点で何かするんじゃない?」

ドニーが口を尖らせて黙ると、くるりと背中を見せた。

「はぁ、もう調子狂う。前からそうだ、ああ思い出したよ。お前とつるむといつも僕の調子が狂うんだった」
「あれでも、と話せるからはしゃいでるんだよ」

マイキーは今度こそ小声で耳打ちした。

ドニーとマイキーの案内で地下道を進み続ける。暗くてカビ臭くて寒い。初めてやって来たアンダーグラウンドはお化け屋敷みたいに足が重くなる。それでも、足が動くのはこの二人がいてくれるからだろうか。

「あなた達ずっとここに住んでるの? 下水道に住んでたのはワニじゃなくて亀のミュータントってわけ?」
「そうゆうこと! こっちだよ」

二人は慣れたように地下道を歩く。暗くて、入り組んだ道をするすると進み続ける。私ならきっと5秒で迷子になるようなところだ。二人から離れないように気をつけないと。
そうやってどこからどうやって来たのかもう分からなくなって来たら、突然広い空間に出た。そこはこれまでの地下道のように不快な匂いもしなければ、薄暗くもない、まるでアニメの秘密基地のようなところだった。きっと、ここが彼らの家なのだろう。三階層になっていて、バスケットゴールやスケボの大きなランプまである。

「ここがあなた達の家?」
「そうだよ! おかえり、!」

マイキーが歓迎するように抱きついてくる。マイキーはハグが好きなのかも。私よりもちょっと背が大きいけど、何だか年下の子に懐かれる感じで悪い気はしない。

「マイキー抱きつきすぎ、減ったらどうするんだ」
「抱きついて減るなんてあるわけないじゃん? 、こっち来て!」

違うフロアへ駆けていくマイキーは随分はしゃいでいるようだった。先に行ってしまったマイキーを見送り、横で腕を組んでいるドニーが口を開いた。

「まぁ付き合ってやってよ。あんたが久しぶりに帰ってきてはしゃいでるんだよ。ああ、僕のことは全く気にしないでくれていい。まずは弟が満足するまで付き合ってやって、もし気が向いたらこっちの“用事”をほんのちょっと手伝ってくれればそれでいいから」
「え? う、うん……」

なんか勝手にお手伝い(何の?)することになっていて、適当に返事を返してしまった。後ろでマイキーが私の名前を呼んでいる。

2023.10.14/2023.10.30 修正