記憶にない再会 -02-

今度こそ悲鳴をあげることに成功した私は、彼の胸を押して、その腕から脱出する。見ず知らずの、それもミュータントに突然抱きしめられれば誰だって驚くし、拒絶もする。
ただ、その反応に彼が傷ついたような表情をしたのには、ちくりと内心胸が痛くなる。

「レオ、何してんだ……?」

声と共に次々と影が降りてくる。降りてきた影は大小様々だけど、いずれも緑色の肌、亀のミュータントのような姿をしていた。彼らも私を見て動きを止めた。まるで、信じられないものを見ているかのような視線だ。信じられない、と言いたいのは私だというのに。

「……まさか、か?」

目の前に現れたミュータント達に慄いていると、そのうちの一人、一番体の大きなミュータントが私の名前を呼ぶ。

!」
「わっ!」

彼らのうち一番小柄なミュータントが飛び出してきて抱きついてきた。オレンジ色のバンダナを身につけていて、目から溢れた涙がそのバンダナに染み込んでいく。

「まさかまた会えるなんて! ずっと心配してたんだから!」
「ま、待って! ちょっと待っててば!」

彼を引き剥がし、彼らから後ずさる。彼らは訳がわからない、とでも言いたそうに私を見ているけれど、訳がわからないのこちらの方だ。

「えっと、何で私の名前を知ってるの? あなた達、一体誰?」
何言ってるの? 僕たちのことを覚えてないの?」
「覚えてるも何も、会ったことない、よね?」

亀のミュータントの知り合いなんていなかったはずだ。いたとしても、忘れられるわけがない。すると、抱きついてきた彼が項垂れたように「そんな」と呟く。

「助けてくれてありがとう、でも……多分人違いだと思う」
「いや、それはない。僕らがを見間違える訳がない」

紫色のバンダナを身につけた彼が言う。
でも、私は彼らと出会った記憶がない。奇妙な感覚がする。私は彼らを知らないけれど、彼らは私を知っている。

「じゃあ、どこで私を知ったの?」
「俺たちは、家族だった。八年前まで、ずっと一緒に暮らしていた」
「家族って……」

ありえないと言いたくなる。亀のミュータントと暮らしていた? そんな事実は記憶にない。私はずっとペンシルベニア暮らしだった。

「やっぱり、人違いよ。……本当にごめんなさい」
、僕たち──」
「マイキー、もういいだろ」

ずっと口を閉ざしていた一番初めに現れた彼──レオと呼ばれていただろうか、彼が止めた。

「こいつはもう去ったんだ。俺たちの知ってるじゃないんだ」
「レオ、でも」
「いいから、行くぞ。……俺たちとは生きる場所がもう違うんだ」

冷ややかな言い方をされて、ちくりと胸が痛んだ。心を痛めるようなことを私はしていないのに、どうして罪悪感を覚えなくちゃいけないのだろう。
レオは軽やかに壁を蹴り登って姿を消してしまった。まるでコミックの忍者のような身軽さだ。それに続いて他の彼らも諦めたように駆け上っていく。最後に残ったマイキーという彼が悲しげにこちらを見て、去ってしまった。
夢を見ていたような心地がした。全て夢だったのだ、と言われれば納得していたかもしれない。

「一体、なんだったの」

その問いに答えてくれる人はいない。代わりに、なかなか帰ってこない私を心配してヒステリックになった母さんからの電話がかかってきた。

2023.10.14