分かりやすい視線

「もう気づいてんだろ?」
「……何の話? サイドスワイプ」

サイドスワイプはスクラップのはんだ付けをしていた私の隣にどかっと座った。すると、顔はこちらのままに目線を向こうへやった。何だと思ってちらっとそちらへ目をやると、ストロングアームと何か話し込んでいるバンブルビーと目があい、すぐにそらされた。

「隊長があんたのことが好きってこと、わかってるんだろ?」
「……気のせいでしょ」

本当のことを言うと、バンブルビーが私のことが好きだということは気づいていた。気づかないのがおかしいくらい、分かりやすい。
仕事中にちらちらとこっちを見てるのも気づいているし、定時になればすかさず送ろうかと声をかけてくる。私、ベスパで通勤してるのに。
周囲にだってそれはもう周知されているくらいだ。そのことに気づいていないのはグリムロックと本人であるバンブルビーぐらい。

「あんたも悪女だねぇ、隊長の気持ちを弄んで」
「変なこと言わないでくれる?」

にやにやにや。サイドスワイプは私をからかって遊んでいるようだ。そのにやついた顔がそう言っていてムカつく。にやついた顔をはんだ付けしてやろうか。

「せめて、イエスかノーかそんぐらいはっきりさせてやったらどうだ 隊長が不憫だぜ」
「余計な御世話だっての。そもそもなんで私が! 告白されたわけでもないのに」

――彼らは地球から気の遠くなる程遠い、セイバートロン星というところからやってきた機械生命体である。そんな彼らと地球の人間が恋をするなんて、色々無理がある。体の大きさや寿命や、そもそも人種だって違う。ありえない。古いSF映画ならありえたかもしれないけど。
そう言い返しても、サイドスワイプは食い下がる。

「お前、案外頭硬いなぁ、もっと気楽に考えたらどうだ、俺から見ても隊長はいいやつだ。そんなやつに想いを寄せられて、悪い気はしてないんだろ?」
「サイドスワイプ、良い加減に……「サイドスワイプ、パトロールの時間だ」

唐突に頭の上から声が降って来た。バンブルビーだった。見下ろすバンブルビーにサイドスワイプは百面相で、ちょっと面白かった。

「あ、あぁもう、そう時間ね。了解、行ってくる」

そう言いながら彼はトランスフォームして、ストロングアームと一緒にスクラップ場を出て行った。残されたのは私とバンブルビーの二人でちょっと気まずい。今の話、聞かれてただろうか……。

「あー……サイドスワイプと、何の話をしてたんだ?」
「(あ、聞かれてなかった)別になんてことない、雑談してただけ」
「そうか……」

彼ら、トランスフォーマーの表情は、機械だから、人間ほど表情を読み取りにくいし、何を考えているのかわかりにくい。でも、バンブルビーだけは別。すごく分かりやすい。私に適当にあしらわれて、落ち込んでいるのと、やっぱりサイドスワイプと何を話してたのか気になっていて、私のそばを離れない。

「えっと、そうだ。仕事が終わったら、送ろうか」
「……私、今日ベスパなんだけど」

サイドスワイプの言葉は癪だし、私がバンブルビーのことが好きかというと、それはノーだ。でも、彼が言う通り、まんざらでもない自分もいて、その好意が丸わかりの言動に心が動いている。
ああ、今日もこの黄色い機械生命体に頭を悩まされる。

2023.09.17