拗らせかけの恋2当然のようにオリキャラが出る

フェスの時期になると、バンカラ街が活気付いて楽しげな音楽が期間中なり続ける。その中に入って友達と楽しむのも好きだけど、こうやって遠くで眺めているのも好きだ。
皆楽しそうに音楽に合わせて踊ったり、すりみ連合の歌に盛り上がっている。

……私は今なぜかスパイキーさんの隣に座ってすりみ連合のライブを遠巻きに見ている。なんでこうなったんだろう。

スパイキーさんとはおマツちゃんの付き合いで最近よく会うようになった。
この前、ご飯を奢ってもらって一緒にご飯を食べたけど、おマツちゃんほど仲がいい間柄という訳でもない。

今回のフェスでやっとでギアの付け替えをお願いをした。
結果は相変わらず散々なものだった。対人慣れしてるおマツちゃんのお荷物になってる。
連敗が続いて流石に申し訳なくなって、休憩したいと口実を作って少し抜けさせてもらった。これ以上負け続けたらフウカちゃんもとい、あんこチームの皆に申し訳ない。

おマツちゃんはじゃあ、スパイキーとお話しして待っててよ……と言い残して去ってしまった。
お話し、と言ってもスパイキーさんとは共通の話題も無いし、気まずさしかない。出店でも見に行こうかなと思ったらバチっと目があった。

「ん……まぁ、座ったら?」
「あ、はい……じゃあ」

誘われたら断ることができないたちなのでお隣に座らせてもらう。特に何か話す訳でもなく賑やかな雑踏を眺めるだけの時間が過ぎていく。
黙って座っているとスパイキーさんの元にクリーニングやスキル付けの依頼をするイカやタコ達がやって来る。数人立て続けにやってきたのでお邪魔じゃないかな……と思い始めた。

「あの、私ここにいて邪魔じゃないですか?」
「え? なんで」
「いや、お忙しいんじゃないですか? フェス中だし」
「まぁ、稼ぎ時だし……けど邪魔なんて思ってないからさ」
「そ、そうですか?」

本人が言うのなら、そうなんだろう。でも、話することもないし、マツちゃんが来るまで大人しくしてよう。
そう思っているとスパイキーさんが「あ」と声を出して、何かこちらに取り出した。茶色い紙袋を「ん、これ」と手渡してきた。

「なんですか? ……あ、たい焼き」

中にはたい焼きが所狭しと入っていた。まだ少し温かい。

「その、良かったら」
「いいんですか? 食べても」
「うん、食べきれないし」
「じゃあ、一ついただきますね」

せっかく勧めてくれたのだから、一ついただくことにして手にした。紙袋を返すとスパイキーさんも一つ取り出して口に運ぶ。同じように口に入れれば、あんこの甘みが口に広がる。

「美味しいです」
「ん、良かった」

たい焼きは久しぶりに食べたけど、やっぱり美味しい。ライブの光景を眺めながらもう一口咀嚼した。

「……好きなの?」
「え?」
「いや、そのあんこ……」

唐突にそう聞かれてちょっと面食らった。もしかして、あんこTシャツを着ているからだろうか。そうしたらこのたい焼きもわざわざ用意してくれたのかも。

「はい、好きですよ」
「そ、そう……」
「?」

また謎の間。スパイキーさんと話すとこういうよく分からない会話の間が空いてしまう。多分、嫌われてはないんだけど、こういうことはあんまりないからちょっと戸惑う。

空気の間に困っていると聞き慣れた声がビルの入り口から聞こえてきた。

「いやぁ! イイ感じに勝った!」
「あ、おマツちゃん」
「お待たせ。退屈してた?」
「ううん、すりみ連合ゆっくり見てたし大丈夫」

おマツちゃんのご満悦、という顔を見るにどうやら良い成績を残せたみたいだ。

「スパイキーが話相手だと退屈だったんじゃない?」
「いや、そんなことは……」
「ほっとけ」
「ところでそれ何? たい焼き?」

スパイキーさんの抗議も軽くスルーしたおマツちゃんは紙袋の中身を見る。スパイキーさんが「勝手に見るナ」と言っている。

「これ全部あんこ? スパイキー気回らないわね、この子カスタード派だよ?」
「え、いやだってTシャツ……」
「あ、これ私に合わせてくれたの。同じチームにするためにさ」

スパイキーさんが「はぁ?」と驚いたような表情をする。どうしてそんな顔をするんだろう。

おマツちゃんの言う通り、今回のフェスのお題の中なら純粋に好きなのはカスタードだ。
でも、おマツちゃんと同じチームになるためにあんこを選んだ。あんこもカスタードもホイップもどれも美味しいし好きだし、これといってこだわりはない。

「……ごめん」
「えっ、なんで謝るんですか! 私あんこも大好きですよ!?」
「それオレに気使ってる?」
「つ、使ってませんよ! それに、勘違いかもしれないんですけど……もしかしてそのたい焼き私があんこ派だと思ったから用意してくれたのかなって……」

自意識過剰みたいでちょっと言いづらいことだったけど、ひょっとして、と思って聞いてみる。
すると、スパイキーさんが口を少し尖らせてそっぽを向く。これは、照れてるのだろうか。

「スパイキー照れてるのぉ?」
「うるせぇ、ほっとけよ!」
「あ、あのスパイキーさん」

名前を呼ぶと、スパイキーさんがこちらを振り返った。何か驚いたようにこちらを見下ろしている。そんなに驚かせるような声量じゃなかったはずだけど……とりあえず言葉を続けた。

「用意してくれてありがとうございます。美味しかったです」
「……ん」

お礼を言うとさっと顔を逸らされてしまった。いつも飄々としているようにも見えたけど、結構照れ屋なのかも。そんなやりとりをおマツちゃんは何だかニヤニヤと見ている。
え、何? これってもしかして……

「その……もし良かったらなんだけど」
「は、はい」

スパイキーさんの言葉を待つ。何でこんなに緊張するんだろう。

「オレと「あーいたいた、ちゃーん」
「あれ、ケンサキさん!?」

スパイキーさんの言葉にのんびりした声が被った。ひらひらと手を振りながらケンサキさんがやってきた。

「どうしたんです?」
「今ヒマ? ヒマだよね? バイト行かない?」
「え、フェス中なのにバイト!?」

後ろでおマツちゃんが驚いた声を上げている。

「何言ってんだ、フェス中のバイトが熱いんだ、行くぞ〜」

ケンサキさんに腕を引っ張られてそのまま連れて行かれる。とりあえず呆然としているスパイキーさんに「すみません、また後で! ご馳走様です!」と言い残して、クマサン商会へ向かった。

「新しい編成とか戦略試したかったんだけどな〜」
「なんでいつもこう邪魔が入るんだ……」
「まぁまぁ、後でって言ってたじゃん! ちょっと前進したんじゃない?」
「……ハァ」

2024.03.31