拗らせかけの恋当然のようにオリキャラが出る
足が疲れてきたので立ち上がって伸びをする。これで二回目だ。
足元でうんうん唸っている友人のおマツちゃんはずっと考え込んでその状態から身動きしない。ずっとそのままだけど、足が痺れたりしないのだろうか。
どれくらい時間が経っただろう。いい加減お腹が空いてきた。軽くストレッチをして声をかける。
「ねぇ、早くお昼行こうよ」
「待って! メインつけるのは決めたけど、イカ速にするかスペ増にするか……」
はぁ、と思わずため息が出てしまう。ガチマッチのことはよく分からないけど、イカ速やスペ増一つでそんなに変わるものなんだろうか。
普段はバイトばかりで時々フェスに参加する程度だから対人のことはよく分からない。
手持ち無沙汰になって彼女の前に座る──ウニの青年の方を見る。
スパイキーというこの青年は装備のスキルのあれこれをしたりしている人物で、彼女はよくお世話になっているらしい。バイトばかりの私はこれまであまり関わりがなくて挨拶程度の間柄だ。
構成考えてから来たらいいのに。
こんだけ前を陣取られると彼もいい迷惑だろうな、と同情していると目が合ってしまった。
「あ、どうも……」
「……ッス」
き、気まずい。別に何か用があって見ていたわけじゃないから余計に。何か会話しようと思っても共通の話題がなく、天気くらいの話題しか思いつかない。
「っと……アンタはいいの? あんまスキルとかつけねーよナ?」
「え、そ、そうですね。私、ほぼバイトばかりで……」
「だったらカケラも溜まってるだろ? そういうのもつけられるし、アンタもよかったら」
「あ、ありがとうございます……」
社交辞令でとりあえずお礼を言ったものの、あんまりお願いしないだろうな……と思う。バイトは装備も貸し出しだから、スキルは関係ない。
でもフェスの時はちょっと意識した方がいいかもしれない。
「じゃ、じゃあ次フェスの開催の時、お願いしますね」
「! ああ、うん、いつでも」
返答に少し困ってとりあえず笑っておく。シャケしばきばかりで対人は本当に苦手だ。
でも、これでちょっとでも勝率上がればいいな。何をつけたらとかよく分からないけど。
「でも私、ナワバリですらあんまりやってなくて。こういうのよく分からないんですよね」
「な、なら、俺……」
会話の途中でスマホの着信音が鳴り響いた。私のスマホだ。「ちょっとすみません」とスパイキーさんに断って電話に出る。
「もしもし?」
『あ、ちゃん? オツカレー』
「ケンサキさん、お疲れ様です」
バイトをよくご一緒する先輩のケンサキさんだった。彼のゆるい声が電話越しに聞こえてくる。普段は穏やかだけどバイトの時は結構怖い人だ。
『今ヒマ? これからバイトなんだけどさぁ、穴開いちゃって。ヒマだったら来られない?』
「あーちょっとなら大丈夫ですよ」
これからお昼を食べる約束があるけど、この様子じゃまだかかるだろう。それに、もういい加減待つのは飽きた。あとで店で合流することにしたらいいや。
『ホント? いや助かるわぁ。新人ちゃんのノルマ達成キツくてさぁ。じゃあイカヨロシクー』
会話を終えてスマホをしまいながらおマツちゃんの肩を叩く。
「おマツちゃん、ごめん。バイトで欠員出たらしくて今からヘルプ行ってくるね」
「え」
「ええ!? だって今日はノルマ達成したからって……」
「助け合いの精神だよ。お店勝手に決めてくれていいからさ。じゃあまたあとでね」
おマツちゃんにそう言ってこの場を離れようとしたらこちらを凝視するスパイキーさんと目が合う。
……今日はやけに目が合うなぁ。とりあえずぺこ、と頭を下げておいた。
それにしても、新人ちゃんか……今日の武器構成は癖あるからノルマ達成するの大変そうだ。
***
立ち去ったを二人は何か物言いたげな表情で見送った。先にため息をついたのはマツの方だった。
「あーあ、行っちゃった。ケンサキさんに先越されたね、スパイキーがさっさと誘わないから」
「ぐ……」
じろり、とマツに睨まれスパイキーはぐうの音も出ないという表情をする。
「し、仕方ねーだろ、まともに話したの今日が初めてだし」
「だったら押しまくればいいでしょ? 足痺れちゃった」
スパイキーとマツはハイカラスクエアに住んでいた頃からの付き合いだ。バンカラマッチ狂いの彼女は今でも毎日のように彼の元を訪れる。
スパイキーがこの街で商売を初めてしばらくしてマツは時々彼女を連れてくるようになった。以来、彼女を目で追うようになった。有り体に言えば一目惚れというやつだ。
に話しかける機会を伺っていたが、なかなか機会がない。というのも彼女はバイトの方ばかり専念するため、話しかけられることも無かったのだ。
「あたしがせっかくきっかけ作ってあげたのに。どうすんの? お腹空いたし先にご飯食べて待ってようと思うんだけど」
「協力するって張り切ってたのそっちだろ! ここで見捨てるのかよ!」
「まさかあんたがそこまでヘタレだとは思ってなかったからさぁ〜。ま、あんたがご飯奢ってくれるっていうなら? 考えてやらなくもないけど?」
「足元見やがって……」
忌々しげにスパイキーがマツを睨む。成長して背が高くなり、見下ろされるようになってしまったが、マツは少しもたじろがない。
「いいじゃん、あの子とご飯に行くっていう目標達成の口実はできるわよ?」
「……なら共通の話題とか振ってくれよ」
「おっけー任せといて! なら先食べて待ってよ! 今後の対策考えてあげるから!」
「ハァ……」
意気揚々と先に行くマツについて行く。本当なら、今頃隣にいるのはのはずだった。次こそはと心に決めた。
「……なぁ、さっき電話の相手ってさ、男?」
「ケンサキさん? あの人シャケにしか興味ないから、問題ないよ」
「あ、そう……」
2024.03.31